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尼崎西宮芦屋港

大晦日のみなと
岩井珠恵(ヴィジュアルデザイナー)

 
メリケンパーク
  六甲山麓の高台にある小学校の校庭からは海が大きくひろがって見え、沖泊まりをする大型船がいつでも数十隻程度は数えることができた。海沿いに建つ工場の沖では、時々、水上飛行機のテスト飛行が行われ、水しぶきをあげながら着水試験を繰り返すのが望め、テスト飛行がはじまると、海の見える一隅は小学生で鈴なりになっていた。

遠足や耐寒登山など、何かにつけて裏山の六甲山に登る機会の多い神戸では、どこからでもみなとが見え、いつでもみなとを見ていたように思える。山から見るみなとは、私達、神戸っ子の「みなとと私」の原風景である。格別に大きな船や美しい船が入ると、みなとまで見に行ったり、船に乗せてもらったりした経験を、誰もが持っている。

そうしたみなと風景の中でも、特別な思いがあるのは、大晦日のみなとである。

大晦日の夜、テレビではにぎやかな歌番組が終わって一斉に年越し番組になり、日本各地の名刹、古刹から年越し風景が中継され、厳かな除夜の鐘の音が伝わってくる時刻になると、神戸では、あたたかなコートをはおり部屋の明かりを消して、窓を開けて耳を澄ます。いよいよ年越しの瞬間、暗闇を包み込むように、「ウォー」「ボォー」「フォォォー」、いっせいに、汽笛が聞こえてくる。岸壁の船や沖泊まりの船など、汽笛は遠く近く、音色もさまざまである。年越しの一瞬、暗闇の中に聞こえる船の長声。この音を聞かないと、神戸では、何ともしまりのない年越しになってしまう。

海いっぱいに沖泊まりの船が泊まっていた頃、年越しの汽笛は海鳴りのように大きく聞こえた。地を揺るがすといっても過言ではないように思えた。

スピード荷揚げのコンテナ船時代になり、年越しにみなとにいる船は激減したが、それでも年越しの汽笛は聞こえてくる。人に教えるには少しもったいないような気もするが、でも、自慢したい私の大好きな「みなとの音風景」である。

 
今崎陽吉 プロフィール
岩井珠惠(いわい たまえ)
神戸市生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業。株式会社クリエイティブフォーラム代表取締役、大阪市立大学非常勤講師、兵庫県景観形成審議会委員、兵庫県広告物審議会委員、神戸市都市景観審議会委員などを務める。構造物景観形成やモニュメントデザイン等の環境創造から、コミュニケーションデザインや商品パッケージまでと幅広いデザイン活動で活躍中。
 
 
 

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