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尼崎西宮芦屋港

神戸、大好き
露の団六(落語家)

 
メリケンパーク
  子供の頃、浜に座ってボーっとしているのが好きだった。東灘区の深江の浜、横には漁港、商船大学、そして自分たちが通う幼稚園、小中学校と並んでいた。しかしそれらは、今はもう無い。浜は埋め立てられ、学校は壊滅した。決してきれいな浜ではなかった。けれども好きだった。

座っていると、近所のオッチャンが「行ってくるど」とポンポン〜と船を沖に走らせた。同級生の女の子はタンポポの種を吹き飛ばしていた。商船大の寮生は酔っ払って遊んでいた。そんな兄ちゃんが卒業前の航海実習になると、ピチッとヒゲをそり落とし、彼女を連れて喫茶店でコーヒーを飲んでいた。兄ちゃんにも、オッチャンにも憧れた、都会のなかの田舎の深江の港である。今はもう、ない。

大人になって、須磨にあるラジオ関西で仕事をすることになった。♪「こっこは海の見える、ラララ♪」と言う、あの放送局である。

海は見えなかった。前に国民宿舎があったのである。

けれど、いつも須磨駅で降り、浜辺を歩いてラジオ関西に通った。冬になればノリの養殖のイカダが浮き、梅雨になれば海の家の建築がはじまった。浜が好きなのである。ただあの浜は後から砂を入れているので、我々がガキの頃踏んだ砂ではない。粒が荒い。

本来の須磨の砂はJR須磨駅の西側にわずかに残されていたが、埋め立てられてしまい、今はもう、須磨本来の浜はない。あれば教えて欲しい。行く。

その後、震災に会い、須磨の局舎は使えなくなり、神戸新聞社と共にハーバーランドに移転した。

スタジオから見る神戸の夜景はまるで絵ハガキのようであった。美しかった。ポートタワーが鼓の様に、そして観覧車、その向うに見えるホテル。ああ、これか。これ見てみんな神戸に来よるねん。それでいいと思う。

完ぺきなまちなど無いと思う。あったら恐いと思う。神戸に初めて来た観光客にはエエトコだけを見て欲しい。と、いうより、神戸ってあんまりやなあ、と言われると心底腹が立つ。

我々神戸人同士では「なあ、神戸なんてなあ、どこがなあ」と言うのだが、そして笑い合うのだが、それを「ほんとね」と言う、神戸以外の人に会うと激怒するのである。

キズも何も含めて、神戸人は神戸がキライで嫌いなんやけど、スキ、で、好きで、大好き、ダイスキ、なんだろうと思う。

 
今崎陽吉 プロフィール
露の団六(つゆの だんろく)
1958年、神戸市生まれ。神戸大学教育学部卒業。在籍中に露の五郎氏に弟子入り、落語家に。落語会のほか、ラジオ関西「露の団六のニュース大通り」でパーソナリティーを14年に渡ってつとめるなど多方面で活躍中。昨年、毎日新聞家庭欄に「兄貴は楽しい?ダウン症」を連載。ダウン症の兄との生活をユーモア溢れる筆致で綴り、好評を得た。
 
 
 

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