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尼崎西宮芦屋港

夏休みの思い出
若宮テイ子(fm osaka・DJ)

 
布引山より海を望む
布引山より海を望む
  「わぁ、海が見える!船も見えるよ!!」
小学校3年の時、学校からメガネを着用と言われ、母と一緒にメガネを作りに行った帰りのことだった。毎日通る坂道から、初めて見えた神戸の港。今まで、こんな場所からでも、海や船が見えるなんて思ってもみなかった。背後には、緑に燃える六甲の山が、前方には、神戸港がせまってくるようにも思えた。船の色まで見えてくる。今まで遠い所だと思っていたその場所が、急に私に近づいてきたようだ。

神戸に育ったものなら、山は北、海は南と決まっている。どこからでも見える山や海が、ちょうどコンパスの役目をしてくれている。そして、上へ行くと言う意味は、坂を登ることであり、下へ行くということは、坂を下ること。そして、下へと続く川は、必ず海と出会うということ。

ちょうど、夏休み、あることを思いついた。家の近くに流れている都賀川(当時は、大石川と呼んでいた。)を下って行けば、必ずあの港へたどり着けるのではないかと。小さな子供にとって、それは、大きな冒険でもある。熱射病にかからぬようにと、帽子と水筒を用意し、お菓子もバッグに詰め込み、そして、その計画は、家族にも、誰にも秘密にした。まず、近くの公園横を流れている川沿いの道を下へ下へと、歩いて行ったのだが、しばらくすると、国鉄(JR)に突き当たった。その線路を越えるには、近くの踏切を探さなければいけない。しかし、この川から離れてしまうことは、港へと誘導するものがなくなってしまうことでもある。一瞬ためらったが、子供にとって、東や西が分からなくても、山と海を見れば、北と南は分かる。国鉄の踏切を越え、また、川沿いの道に戻り、歩いていると、国道に出た。初めて見る町並みと、道行く人たち。見慣れない電車も通っている。何だか、遠い所まで来てしまったような不安。近くに見えていた神戸の海も、それほどでもないことに気づいた時、今なら、来た道を戻れるのではないか、引き返そうか・・・とためらった。が、「必ず、港に出会うのだよ」と、この川が教えてくれているようで、私は、勇気を出して、再び歩きはじめた。阪神電車の線路を越え、大きな道路も越え、そして、しばらく歩いたその時、川が、大きく広がっているように思えた。

波の音が聞こえてくる。潮の匂いもする。とうとう神戸の海へたどり着いたのだ。今まで流れていた川の水が、海へと変わっていくその地点を見てると、なぜだか、自分が地図の上にいるようで、とても不思議に思えた。ポンポン船が見えてくる。釣りをしている人もいる。遠くには、コンテナや、貨物船まで見える。

「あの船は、外国から来たんやろか。遠い国から、来たんやろな」
「今度は、あの船で、外国へ行ってみたいな」
と、一人感心しながら、夢見ながら、しばらくの間、埠頭をずっと見ていた。近くに見えていた神戸の港は、思った以上に大きく、広く、そして、動いていた。港の動く姿を見て、この街も生きているのだと思った。
 
松下衛 プロフィール
若宮テイ子(わかみや ていこ)
神戸出身、神戸在住。親和女子大学卒業。
現在、fm osakaの朝と深夜のDJ。
また、アクセサリーショップ「galetガレ」を経営しながら、自身でもデザインを手がけている。
 
 
 

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