香りと音楽
今崎陽吉（音楽プロデューサー）

　 大好きな神戸の町について、今残念に思うことが二つあります。
一つは町に香りがないことと、もう一つは音楽が聞こえないこと。
二つとも神戸の町にぴったりのキャッチだから余計に思うのかもしれません。

香りについては、昔は神戸のどんなところでも汐の香りが漂っていたように記憶しています。ところが今はそれこそ海の側まで出かけて行って思い切り息を吸い込まなくてはなりません。大きな建物やたくさんの車のせいなのでしょう。

音楽については、よく神戸はジャズやサンバが盛んといわれますが、それでは日常的に町中どこでも楽しめるかというとそうではありません。

つまり、この二つについては、イメージとして人々が描く神戸の町と現実とが乖離しているといえます。

それではそれらを完璧なまでに備えた場所、身近な海外として人気があるハワイはどうでしょう。ホノルル空港へ降り立つと同時に、南国の花の甘い香りとアコースティックなやさしい響きが歓迎してくれます。

そしてそれが何処まで行ってもずっとついて回ります。長く滞在している間にすっかり慣れてしまって、帰りの飛行機の中で急に思い出して寂しくなるのが毎度の経験です。

香りも音楽もどちらも姿が見えません。しかし間違いなく人間の心を豊かにしてくれます。そしてそれが今神戸の町に必要なものに思えてなりません。

みなとに行けば香りと音楽がやさしく包み込んでくれる。見失った神戸らしさをやはり“みなと”から取り戻したいものです。